「なすびなにいろ?ってきいて、む、ら、さ、き、っていっているあいだにしゃっくりとまるよ。」
「むーらー」
「もっとゆっくり!むーーーーーーらーーーーさーーーーき」
「止まらないわ」
「そっかー私は絶対これで止まるんだけどな、しゃっくり。」
「思い込みの力ってあるよね」
「そうかーそれか」
2022年8月24日。
8月いっぱいでシェアハウスは終了し、今の家を引っ越すことになって、引っ越す前に友達呼んでパーティーしようという話になってピザパーティーを開催した。
夕立に降られてびしょびしょになりながらまやちゃんは家からかき氷機を持ってきてくれて、
すみちゃんはシャインマスカットを持ってきてくれた。
面白かった舞台や映画の話、ジョジョと進撃は絶対に見た方がいいって熱弁と、はねるのとびらのなんの企画が好きだったとか同世代ならではの話を笑いながらする。
途中でコンビニに行って氷を買って、ゴリゴリと氷を削りながら懐かし~とみんな言っていたけど、我が家は母が氷を削る音が苦手で家でかき氷を食べた記憶がほとんどない。だから今後家庭用かき氷機に出会った時はきっと今日のことを思い出すと思う。
今年の夏の前半はほとんど稽古場と劇場にいたから、この日が一番夏を感じた日だった。
「しゃっくりがずっと続くと死んじゃうんだよ」
現にしゃっくりが止まらない人の隣で話しだす。
「嘘でしょ?」
「臓器が痙攣しとるんよ。実際に死んじゃった人いるって、多分アンビリーバボーでやってた」
そんなん話したら不安になるじゃんか!と思ったけどまやちゃんは変わらずたまに大きくしゃっくりをしながらゴロゴロしてニヤニヤしている。
みんなそれぞれが持ってる”しゃっくりを止める方法”を試すけど、まやちゃんのしゃっくりは一向に止まらなかった。
その後みくちんがお土産で渡したパックをまやちゃんがつけて、みくちんも便乗してユニット組むか~とか言って写真を撮り始める。
ユニット名どうする?と聞いたら
すみちゃんが「SUKEKIYO!」と言い放つ。(確かにすごく分厚いパックで二人の顔は真っ白だった)
売れて金持ちになりて~ってケラケラ話す。
みんな一人の夜はこれから先の不安に何度も押しつぶされている、きっと。
すみちゃんが笑いながら言ってた「でもみんなは頑張ってることがあるから~」という言葉が心に引っかかる。
「泊まる気満々できたからね~」と時計を気にせずにいたらもう3時とかになってて、みんなで川の字(一本多い)になって寝た。
「ゴミ捨てなきゃいけないから8時までには帰らなきゃ」
「えー偉すぎる」
「なすびがやばかったねんなぁ。液状化しちゃってて」
「あたしもこの間ゴーヤ液状化させた」
「くさそー」
「もう黄色かったもんね」
私は次の日バイトだったから、そこで寝てしまってこの会話までしか記憶にないのだけど、その後すみちゃんとまやちゃんは宇宙の話で超盛り上がったらしい。(ちなみに二人はこの日が初対面だった)
お酒を飲んだ日の朝は必ずbadモードがやってくる。
目が覚めてすぐに行ったトイレの中で最悪な感情の波に溺れた。
このパーティーの前に、私は10月にやる予定だった自主公演をやめることにした。
大学時代の教授が言っていた「何か2つのことで迷った時、先が見えなくて難しい方を選んだ方がいいよ。」って言葉を迷った時はいつも思い出して、それを指標にこれまで様々な選択をしてきたから、多分初めて簡単で、結末が見えている方を決断してしまった。何度もこれで良かったと、これ以外仕方なかったと思ったけれど、本当は自分に自信がなかっただけなんじゃないかと自責の波が止まらず苦しかったのでもうやらずに後悔するということはできるだけしたくないなと思った。
選択をするとき、結局選択した先の結末を全て受け入れなければいけないのは自分一人だ。自分で選択できるようになれなきゃ後悔の気持ちは行先もなくずっと残り続ける。思考もまとまらぬまま吐き出してしまった言葉を思い出しては自分の未熟さに情けなくなる。
でも大丈夫。badモードは一瞬で、きっとすぐこの決断をした自分を肯定できるようになる。ちゃんと今の自分が悩みに悩んで決めたこと。(ふとした時後悔してしまうのはその先に機会を自分で作れる自信を失ってるからだと思う。情けないよ。絶対に作るよ。)
誰にどう思われようと、結局自分がどうありたいかでしかない。
強くならなきゃいけないよ。怠けていちゃいけないよ。
戻るとすみちゃんがもういないことに気づく。
えらい。本当にゴミを捨てに帰ったんだ。
昨日の夜に笑いながら何度か繰り返していた言葉をまた思い出してすみちゃんも帰りのバスでbadモードに入ってないといいなと思った。
こういう夜があるからやっと生きていけた2年半だった。
アメリカの映画の学生がしょっちゅう家でパーティーしているのに憧れてたけど、ドレス着てないってだけでほぼおんなじことしてたじゃんか、と振り返って思う。
美味しいもの食べてお酒を飲んで、文句を言ってぶつかり合ってちょっと喧嘩もして、これからの話をして気分が乗ってきたらギターを弾いてそれぞれが歌う。映画の中のような時間が目の前で流れていて、この時間の愛おしさを噛み締める。
下北沢での生活は多分死ぬ前にあの頃は良かったな、と必ず思い出すと思う。
思い出して、まあ色々あったし基本辛かったけど生まれてきては良かったな~と思えるくらいにはこの日々は、あの夜は、宝物になると思う。
結局まやちゃんのしゃっくりは何で止まったんだっけ?
それはもうすっかり思い出せないけど。2022.09.02