親知らず

 

2年ぶりに歯医者に行った。


右下の奥歯が腫れ、頬の裏の粘膜にも口内炎ができ、顎は動かすたびにカクカク言う。口周りが満身創痍であることを伝えると、とりあえずレントゲンを撮りますと伝えられ、青いテロテロのエプロンをつけられて機械に顎を乗せる。
そのままじっとしていてくださいねーと言われ部屋に取り残されたあと、顔に赤外線の十字が引かれる。やばい、と思った瞬間、機械音のエリーゼのためにが流れ、わたしの頭の周りをぐるっと機械が回り始める。
人体改造されるか、宇宙にでもいくのか、と不安と興奮が入り混じる。妄想が広がっていく。のも束の間、また歯科助手のお姉さんが入ってきて元の席に戻される。
つい先ほどとられたレントゲン写真が目の前にデカデカと写し出され、割と綺麗に並んだ歯の端に、リーチの麻雀牌のように真横に生えた親知らずがいた。
院長先生がきて、最初にされた質問とおんなじようなことを聞かれたあと、顎をぐりぐりマッサージされながら、ここ痛い?と聞かれる。痛いです、痛いです、と言い続けているうちにマッサージは終わり、カクカクいっていた顎は治っていた。「凝っていただけだね、関節は外れてないから大丈夫。お疲れだね〜」と言われた。
お疲れだね、と言われると急に疲れていることを自覚し全ての疲れの理由を思い出して泣きそうになる。
この親知らずは抜いた方がいいね、素直に生えているからそんなに大変じゃないから大丈夫だよ、15分くらいで抜ける。もう次回抜歯でいい?
と聞かれる。わたしはつい最近友人達からいかに親知らずの抜歯が恐ろしかったかをきかされていたばっかりだったのでこんなすぐ?と思い、顎の調子も悪いし〜ずっと開けてられるかな〜とかぶつぶついいながら渋ったけど顎はマッサージをし続けなさい、職場のパソコンにシールでも貼って、思い出すたびにやりなさい。親知らずは早く抜くに越したことはないと言われて腹を括った。
あまりにも痛すぎて急いで調べた病院だったけどとてもいい歯医者だった。
明日は先輩に教えてもらった整体にいく。健康診断もうけるし眼科にも行こう。この一年休みなく駆け抜けた分溜まったダメになってる部分を今のうちに治そう。
それにしても親知らずって名前つけたの誰だよ。名前聞くたびに自分のことを言われているようで凹むから、せめてなんかもっと引き出しの中の忘れてた五千円みたいな雰囲気の、少しクスッとするような、まぁいっかと思えるような名前をつけてほしかった。

2023.04.17